💪 体力の科学
行動体力と防衛体力
「動ける力」と「守る力」——体力には2つの側面がある
「体力がある」と聞いて、何を思い浮かべますか?
マラソンを完走できる持久力?重いものを持ち上げられる筋力?
多くの人は「動ける力」をイメージするでしょう。しかし、体力にはもう一つの重要な側面があります。
体力 = 行動体力 + 防衛体力
「行動体力」は動くための力、「防衛体力」は身体を守る力。
この2つがバランスよく備わって、初めて「体力がある」と言えます。どちらか一方だけでは、本当の意味での健康は手に入りません。
🔬 1. 体力の全体像
体力は大きく2つのカテゴリに分類されます。
🏃 行動体力(Performance-related Fitness)
積極的に身体を動かすための能力
走る、跳ぶ、投げる、持ち上げるなど、外部に対して働きかける力
🛡️ 防衛体力(Health-related Fitness)
身体の健康を守り維持するための能力
病気への抵抗力、ストレスへの耐性、環境変化への適応など
💡 わかりやすい例え
行動体力 = 車の「エンジン性能」(どれだけ速く走れるか、坂を登れるか)
防衛体力 = 車の「耐久性・防錆性能」(壊れにくさ、長持ちするか)
どんなに速く走れる車でも、すぐ壊れては意味がない。両方必要。
🏃 2. 行動体力とは——その構成要素
行動体力は、身体を積極的に動かす能力です。さらに3つの要素に分けられます。
① 行動を起こす能力
動作を開始するための基本的な力。
筋力(Strength)
筋肉が一度に発揮できる最大の力。重いものを持ち上げる、押す、引く能力。
瞬発力・パワー(Power)
短時間で大きな力を発揮する能力。ジャンプ、ダッシュ、投げるなど。筋力×スピード。
② 行動を持続する能力
動作を長時間続けるための力。
筋持久力(Muscular Endurance)
筋肉が繰り返し力を発揮し続ける能力。何度も持ち上げる、長時間姿勢を保つなど。
全身持久力(Cardiorespiratory Endurance)
心臓・肺・血管が長時間にわたって酸素を供給する能力。マラソン、長距離水泳など。
③ 行動を調節する能力
動作を正確に、効率よく行うための力。
敏捷性(Agility)
素早く方向転換する能力。サイドステップ、切り返しなど。
平衡性・バランス(Balance)
姿勢を安定させる能力。片足立ち、不安定な場所での動作など。
巧緻性・協調性(Coordination)
複数の身体部位を連動させる能力。ボールを投げる、楽器を演奏するなど。
柔軟性(Flexibility)
関節の可動域の広さ。身体を曲げる、伸ばす、ひねる動作の幅。
📊 行動体力の構成要素まとめ
🛡️ 3. 防衛体力とは——その構成要素
防衛体力は、身体を外部のストレスから守る能力です。目に見えにくいですが、健康を維持する上で極めて重要です。
① 物理化学的ストレスへの抵抗力
環境の変化に適応する能力。
暑さ・寒さへの耐性
体温調節能力。暑い夏や寒い冬でも体調を崩しにくい。
低酸素への耐性
高地や酸素の薄い環境への適応能力。
気圧変化への耐性
天候の変化、飛行機移動などへの適応。
② 生物的ストレスへの抵抗力
病原体から身体を守る能力。
免疫力
ウイルス、細菌、病原体への抵抗力。風邪をひきにくい、感染症にかかりにくい。
回復力
病気や怪我からの回復速度。風邪をひいても早く治る。
③ 精神的ストレスへの抵抗力
心理的な負荷に対処する能力。
ストレス耐性
プレッシャーや不安に対する耐性。追い詰められても冷静でいられる。
精神的回復力(レジリエンス)
困難な状況から立ち直る力。落ち込んでも回復できる。
睡眠の質
深く眠り、しっかり回復する能力。疲労を翌日に持ち越さない。
📊 防衛体力の構成要素まとめ
📈 4. 両方をバランスよく高める方法
行動体力と防衛体力、両方を高めるアプローチは異なります。
🏃 行動体力を高める方法
筋力・瞬発力
高重量の筋力トレーニング、プライオメトリクス(ジャンプ系)
持久力
有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳)、HIIT
調節系(敏捷性・バランス・巧緻性)
アジリティトレーニング、バランストレーニング、スポーツ実践
柔軟性
ストレッチ、ヨガ、ピラティス
🛡️ 防衛体力を高める方法
免疫力
適度な運動(過度は逆効果)、バランスの良い食事、十分な睡眠、サプリメント(ビタミンD、亜鉛など)
温度適応力
季節に合わせた屋外活動、サウナと冷水浴(交代浴)、適度な暑熱順化
ストレス耐性・レジリエンス
運動(特に有酸素)、瞑想・マインドフルネス、十分な休息、社会的つながり
睡眠の質
規則正しい生活リズム、寝室環境の最適化、寝る前のルーティン、カフェイン・アルコールの制限
💡 両方を同時に高めるもの
適度な運動:行動体力↑ 免疫力↑ ストレス耐性↑
十分な睡眠:回復力↑ 免疫力↑ 精神的耐性↑
バランスの良い食事:筋肉の材料 + 免疫の材料
⚖️ 5. なぜ両方が必要なのか
行動体力と防衛体力、どちらが欠けても問題が生じます。
❌ 行動体力だけ高い場合
「動けるけど、すぐ体調を崩す人」
- 筋肉はあるが、風邪をひきやすい
- トレーニングできるが、回復が遅い
- 体力はあるが、ストレスに弱い
- オーバートレーニングに陥りやすい
❌ 防衛体力だけ高い場合
「健康だけど、動けない人」
- 病気にはならないが、階段で息切れ
- ストレスには強いが、体力がない
- 回復は早いが、そもそも活動できない
- 日常生活の質(QOL)が低い
✅ 両方が高い場合
「動けて、守れる人」
- 活動的に動ける+病気になりにくい
- パフォーマンスが高い+回復が早い
- 体力がある+ストレスにも強い
- 本当の意味で「健康」な状態
真の「体力がある人」とは、
行動体力と防衛体力の両方が高い人のこと。
📝 まとめ:行動体力と防衛体力
- 体力 = 行動体力 + 防衛体力
- 行動体力:動くための力(筋力、持久力、敏捷性、柔軟性など)
- 防衛体力:守るための力(免疫力、ストレス耐性、回復力など)
- 行動体力は運動で、防衛体力は運動+睡眠+栄養+休息で高まる
- 両方がバランスよく高いことが本当の健康
「動ける」だけでは足りない。
「動けて、守れる」身体を目指そう。
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- 猪飼道夫 (1969)「体力の概念と測定」『体育の科学』
- 宮下充正 (1997)「トレーニングの科学的基礎」ブックハウスHD
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」
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